昨年秋の終わりごろだったでしょうか、
ある方が茶室が作られているという話を耳にしました。
お数寄者のその方の事、きっとその方らしいお茶室をお作りになっているんだろう、
いつか、そのお茶室を拝見する機会が巡ってくるかしら、と心ひそかに思っていました。
先月、「茶室披きをするので是非」とお声がかかり、それは嬉しくて3月が来るのを心待ちにしていました。
寒さもひと段落して、春を感じられるようになってきた先週末、
そのお茶室をお訪ねし、茶室披きのお茶事を堪能してきました。
勿忘草色に束ね熨斗、花木が描かれた訪問着
袖を通すのは少し久しぶりだったかな……
帯は桐と松の六通の袋帯。
お太鼓部分には桐、胴の前には松の模様が出ています。
帯まわり
帯揚げはごく淡い卵色、本紋(白生地に紗綾形に蘭と菊をあしらった合せ文)を総絞りにしたもの。
帯締めは金色掛かった卵色と薄紫の平織り。
おめでたい席へのお祝いの気持ちを帯揚げに託してみました。
寄り付きでお白湯をいただいてから、路地を通ってお茶室へ。
炭点前・本格懐石・主菓子・いったん退席して濃茶・後炭・薄茶 一通りのお茶事が終わった後、水菓子とほうじ茶をいただきながらご亭主と楽しかったお茶事の感想やお茶室の拘られたであろうことをお尋ねしたりして、記念の品まで頂戴し、名残を惜しんでお暇しました。
これからもお茶室披きのお茶事を何度かされる由、私のつまらない雑文が、これから訪れられるだろう方々や関係者の方の目に触れるとは思いませんが、お道具や持てないしていただいた懐石・お菓子などの画像でのご紹介ができないのは残念ですが、本当に素晴らしいい一日でした。
まさにお茶の醍醐味を味合わせていただいたこの日、11時に始まり、お別れのご挨拶をしてお暇した時刻は午後5時。
気が付けば6時間があっという間でした。
人生のうち、新しくお茶室を持たれた方から茶室披きに招いていただく機会は何度あるでしょうか。
一昨年、古くなって住みにくさを感じるようになった家から引っ越しを考えた時、
一部屋は和室を、と思ったのは着物の収納と着付けをする場所はやはり畳の部屋でないと、と思ったからでした。
引っ越すとなった時、茶室を持つかどうか、少し考えました。
茶室を作るとなると、庭は(少なくとも一部は)路地が必要になり、腰掛待合や蹲など、どう考えても数寄屋建築の専門家にお願いしなければならなくなる、
そうすると、引っ越しの一番の目的、夫の望む『とにかく日当たりのよい広い庭』は到底無理な話、
そんな事情で、今の家には和室の部屋はあっても茶室はありません。
考えてみると、茶室を持つという事はとても贅沢なことです。
お茶をしない時には家具などまるで何もない、空間としての和室がただそこにある、
ただし、茶室としての設いをちゃんと備えている、とても特別な部屋とその部屋に付随する身支度をするための部屋、そして市中の山居と呼ばれるような路地庭を必要とします。
何もない空間である部屋に、茶道具が置かれ、お湯が沸き、そこに人がいて、茶室はそれまでシンと静まっていた場所から、茶室へと変貌する、そこに美しさを感じることができる、
そんなことを改めて感じさせていただいたお茶室披きでした。