昔、向田邦子さんのエッセイにあったお話。
おぼろげな記憶なので間違っているかもしれませんが、大筋では記憶通りだったはず。
向田さんは頂いたものをすぐ見たくて仕方ない性格だそうで、
来客があり手土産などをいただくと中身が気になって話に身が入らなくなったり、
結婚式の披露宴などで引き出物をいただくと中身を早く確認したくて
家に帰るまでの我慢が辛い人なのだそう。
ある日、やはり披露宴に招待され引き出物をいただいて、ホテルのエスカレーターに乗った時の事。
同じ披露宴会場から出てきたおじ様がエスカレーターに乗っている最中に、引き出物の中の包みの包装紙をビリビリと破り、中身を見たんだそう。
同じ気持ちでいた向田さんはそのおじ様の行為を「我が意を得たり」とすっきりとした気持ちで見ていた。
そんなエピソードです。
すぐに見ないと落ち着かない、気になって仕方ない、そういう性分を軽妙な筆致で披露されていた向田さん。
彼女の書くものが大好きでした。
で、なぜこんな話をいきなり始めたかと言うと、
ちょっと違うけれど私も「すぐ使いたい」タチなんです。
手に入れたもの、新しくなったものなど、大切に保管して
「いざ」と言う時に初めて開封したり身につけたり、使ったり、という性格の方も多くいらっしゃるでしょうけれど、
私は真反対。
今日、お茶のお稽古だったのですが、どの着物を着て出かけようか、一瞬考えて、
(そうそう、今日は水屋に入らせていただくつもりだからカタモノでも良しとしよう。
そうしたら先日、単衣に仕立て替えて戻ってきた白大島が着られるじゃない!)
と、いつ着てみようかワクワクそわそわしていた白大島を着ることにしました。
この着物、単衣に仕立て替えて本当に良かったです。
今日は少し秋らしい日だったせいもあるのでしょうけれど
快適に過ごせました。
袷だったこの着物、洗い張りして単衣に仕立て直してもらったもので、先日、手元に戻ってきたばかり。
もう、「すぐ着たい!」派の私としてはやむなしの行動です。
帯は花織風の正絹の西陣の帯。
九寸名古屋です。
先日のオリエンタル調(?)の帯同様、
気に入って買ったものの、合わせる着物を選ぶのが難しくて、購入時に一度締めて
その後、長いこと帯の収納のシェルフの下の方に眠っていました。
オリエンタル調の息を吹き返してあげたことをきっかけに、
この帯も久しぶりに空気を吸わせてやろう、と思って選んでみました。
帯揚げは花紺色に白で七宝繋ぎの絞りが入っているちりめん。
帯締めは薄灰と樺茶色の糸がぼかしのように組んである丸組。
お稽古場に着き、寄付きに入った途端に
「こと子さん、ちょっと」とお声がかかり、急ぎ蹲を使って茶室に入ると
「ちょっと続き薄をしてこの人に濃茶と薄茶を点ててあげて」とのご指示。
(ええっ⁉なんでしょうか、これは)と思いながらも水屋に行き、
続き薄の支度を整えました。
点前をしながら伺うと、なんだかお稽古の人の流れで、その場でお客様として座っている方が主菓子も干菓子もまだ頂けていない、と言うことだったようで
なるほど、と思いながら(こんなことがあるから油断大敵だわ、大島なんて着てきたから膝をにじったり立ったり座ったりするたびに裾が開きそうになってしまう……)と、もう「後悔先に立たず」の心境でした。
まぁでも、思いがけず続き薄のお稽古ができありがたいこと、ですよね(^^;)
*1:続き薄とは
茶道の点前の一つ、濃茶の点前の途中から薄茶を引き続き点てるのですが
道具をさりげなく替える所作などが面白いお点前です。 短い時間の中で濃茶と薄茶を供することができ、お客も両方をいただけるある意味ショートカット版のようなもの