流派にもよりますが茶道では出帛紗や古帛紗といって
お道具の拝見をしたり濃茶をいただいたりお運びをしたりする際に用いられる
ほぼ正方形に近い形の布が必要になります。
日本で一番大きな所帯の今日庵・裏千家さんが使われるのは古袱紗(縦5寸・横5寸3分 出帛紗の約1/4の大きさです)
不審庵・表千家さんや私がお稽古している流派、一部の煎茶のお流派などが使っているのが出帛紗(縦9寸・横9寸3分、一部を除き点前帛紗とほぼ同じ大きさです)
素材は絹、折柄は名物裂の写しや緞子などが多いのですが、綿や麻、上布など、個々の好みで素材や柄に特に制約はありません。
最初は1枚持っていた出帛紗でしたけれどお稽古を続けていると季節や場面によって使い分けたくなり段々と欲が出てきます。
私が持っている出帛紗のいくつかをご紹介します。
まず、お値段的には一番高価だった
菊花蜀江錦
中国・蜀(四川省)で産する文様で蜀紅錦は蜀江錦と書き、幾何形・左右対称の繋ぎ文で構成されています。
八陵の中に菊の花が配されています。
しっかりとした厚みのある織りでたたんで癖をつけるのに少し苦労しました。
こちら↓は
足利義政が「二人静」の能衣裳ににこの裂を使用したためと伝えられているという通説が一番有名ですが、東京国立博物館の東洋館に展示されている本歌には
『紫地向鳳凰丸文様金襴(むらさきじむかいほうおうまるもんようきんらん)
(明時代・14~15世紀)』とあります。
明時代の中国の裂で伝来ものですね。
次に
経錦 コプト甲冑異文
京都の龍村織物で作られたもので埃及(コプト)綴(つづ)れの紋様として、プトレマイオス朝によく用いられている「円と四点と矩形」の連続した古代文です。
綴れ独特の柄の出し方が一風変わった風合いを出しています。
次は
ジャワ更紗(バティック)
綿にロウケツ染め ジャワ更紗は文様の一つ一つに意味があって柄を見るだけで家柄がわかるそうです。
数年前、お茶の勉強会でジャワ更紗の研究家のお話を聞く機会があり
その年の社中の旅行の行先がバリになり
私は参加できなかったのですが現地のある王族の更紗を帛紗にしてお土産にいただいたものです。
綿生地で薄く軽い手取りなので暑い季節に使うことが多いです。
そして
利休梅緞子
私にとって一番大切な出帛紗です。
この帛紗は昭和15年、千利休350年遠忌の際に私がお稽古している宗匠の御祖父様が
当時のお家元(先々代家元)から下命を受けられ初代龍村平藏と共に製作された出帛紗で、一度も使われた形跡なく当時の箱に入れられたまま実家の和箪笥に眠っていました。
その箱の中に、上記にあるような由緒が書かれた印刷物が入っていて
時代から、おそらくは祖母が手に入れたものだと思うのですが、私がお稽古している宗匠の御祖父様の名が由緒にかかれていた時には本当に驚き、何か不思議なご縁を感じずにはいられませんでした。
今回載せた物以外にあと数枚、出帛紗を所有しています。
全国大会の記念に求めたもの、
お稽古をやめられた先輩から頂戴したもの、
それぞれに手に入れた時の思い出があってどれも大切にしています。
機会があればまた残りの帛紗をご紹介したいと思います。